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PinQulをクローズします

はじめに

今回、2017年の5月から開発を開始し9月より開発・運営してきたPinQulをクローズするという決定をしました。スタートアップの意思決定といえばそれまでですが、1年以上の期間にわたって少なくない数の方の人生を巻き込み応援していただいた中、大変な迷惑をおかけしていることをお詫びいたします。 様々な方の支えがあってこそのサービス運営であったため、このような形でクローズまでの経緯などを文章化しておくことが、説明責任という意味でも僕たちの今後のための振り返りという意味においても大切だろうという事で今回この記事を書くことにしました。

ライブコマースサービス「PinQul」の沿革

僕は昨年の5月に株式会社Flattを創業しました。"Cross Point of Technology and Lifestyle"のスローガンのもと「テクノロジーによる人々の生活の変革」をビジョンに掲げ、5人のメンバーでライブコマース事業の企画・開発を開始しました。事業案はいくつかあったのですが、市場規模をとるためにEコマース領域にベットすることにし、その中でも僕が中国を訪れた際の現地のライブ配信の文化の体験が大きかったこともあり、ユーザーヒヤリングなどを経ていくつかのインサイトも得られた事からライブコマース事業に決定しました。 2017年は「ライブコマース元年」などと言われ多くのサービスが立ち上がりました。ライブコマースは中国で興りを見せましたが、日本ではほぼ前例がないサービスなのでどこも手探り。僕らも手探りでサービスを作り上げていきました。

様々な苦労はありましたが9月にはiOSアプリの公開にこぎつけ、その後Android版、web版と拡大していきました。(web版を出すまでに細かいピボットは沢山ありましたが) プライベートブランドや海外買い付け商品の展開等で、利益こそまだでないものの売り上げは着実に積み上がりつつありました。リリース直後に初めて発注したプライベートブランド(¥12,000のセットアップ 200着)が完売した時のことは今でも忘れられません。 最も高い時にはCVR(購入者/視聴者)が20%以上になることもあり、ライブコマースの数値としてはかなり良いものが出ていました。SNSを引き続き強化し流入を確保することができれば十分ビジネスモデルとして成り立つものだったと思っています。 ではなぜクローズするのか。

そもそも目指していた形から変わってしまっていた

最も大きな理由はこれです。 まず僕個人の目指すところとして日本を変えるために10年で1000億円、20年で1兆円規模の会社にならねばいけないというのは意識していました。

(HiveShibuyaで作業していた当時のホワイトボード。この時立てた構想はだいたい実現せず。)

もともとPinQulでやろうとしていたのは、ライブコマースのプラットフォームとしてアパレルの委託販売を行うことでした。この業態のアッパーは大きく、皆さんご存知スタートトゥデイの時価総額は先日1.5兆に達しました。(今は少し落ち着いていますね) ですが、現状日本でライブコマースをやる上で語るべきストーリーのない商品は売れず、僕らが最適化を進めて行った結果自社ブランドを自社在庫で売るアパレル屋になってしまっていました。

既存の日本アパレル企業の多くがユーザーに向けてではなくバイヤーに向けた商売になっており、半分は在庫が残る前提での価格設定、同じOEMをつかって同じような商品を各ブランドが作り、売れ残りが生まれてはセールで売る、そういった現状に対して、KOLによるD2Cブランドは一定の解を示すことはできたし今後も増えていく流れなのではないかと思っています。 ただ、これだとアッパーとしては10年で300億くらいの会社を作るのが精一杯かなと感じました。

もちろん自社ブランドの会社としてはファーストリテイリングという巨人がいますしLVMHのようにブランドのコングロマリットになるという戦略も考えられますが、リアル店舗展開なども考えてしまうとスピード感を持って進めることができないし、テックに強いチームを生かせません。 何より、これってそもそも目指していた形ではないよねということで株主に相談しつつ経営会議を経てPinQulのクローズを決定しました。

経営会議での激論

最終的には僕の人生目標に対してどうしたいかという判断軸になったのですが、もちろん事業を動かしている他メンバーから一定の反対はありました。 売上は一定立っていたことや、様々な施策を走らせているタイミングではあったため、次の調達をしてもう少し頑張れば黒字化したPinQulでキャッシュを生み出して同時に別の事業を走らせることもできるのではという意見も出て、議論はかなり拮抗しました。

取り得る選択肢としては

  • PinQulにかけてシリーズA調達を行う
  • 事業を変え、一からやり直す

というものがありました。 競合もシリーズAの調達などを行っていたため、同程度の調達を行うことは難しくありません。ですが、仮に次の調達で億単位の調達を行ってしまうとVCも入り、180°の事業変更などは許されなくなってしまいます。(ちなみに今は11人のエンジェル投資家の元で自由にやらせていただいています。)

まだ商品の回転率がまだいいとは言えない状態で、シリーズAを調達し、アパレル屋から離れられなくなった時に自分自身後悔がないかどうか、そう考えたときに僕はPinQulのクローズを選択しました。

この判断に関して経営会議で「井手のやりたい世界を実現するために会社に入ったから、俺からは何も言うことはない」という言葉をもらったときにはこのメンバーでやってきてよかったなと心から思いました。

いくつかの反省

まず僕個人としての反省としては、局所解を追い求め過ぎてしまったというのが経営上の最も大きな反省です。 最初の仮説が当たっていなかったと気付いた時に、PinQulという既存のプロダクトベースで見えてきていた他の課題にどんどんフォーカスを移していき多くの小さなピボットを行ってきたのですが、本来であればPinQulというプロダクトに固執せず、完全にフラットな思考で一から仮説を立てていけばクローズの判断を早めることはできたと思っています。

サービス開始直後からすぐにサービスレベルでの採用を行ってしまったため、サービスをクローズすることで人数を縮小することになると会社として預かっている多くのメンバーの人生を変えてしまうことになるという重圧もこの局所解に走ってしまった一因だと思っており、採用をビジョンレベルで行うことやPMFするまで最小人数で運用することの大切さを改めて感じました。

もっとサービスレベルの話でいくと、初めからwebでやればよかったというのもミスだったと感じている部分です。

最初にアプリで出すことにこだわりすぎてしまい、プロダクトの検証が遅くなってしまいました。ライブコマースの視聴・購入体験をよくするためにアプリでなければならないと思っていましたが実際にはwebでもほとんど遜色ないものを提供することができました。

(iOSアプリ(左)とweb版(右)の比較。多少のデザイン変更があるがほぼ遜色ないクオリティ。)

web版だとアプリをインストールさせなくても、instagramなど流入SNSからURLで直接PinQulのライブにアクセスできるなどのメリットがありました。そこでライトユーザーを獲得し、そこからロイヤリティの高いユーザーをアプリに流す、という流れにするのが正しかったでしょう。 PinQulに限らず、僕が会社をはじめた一年前くらいからアプリビジネスは完全にダウントレンドにあると思います。

またプロダクトで勝負します

僕らはまた0からのスタートですが、1年強の間PinQulを運営してきた経験は消えることはありません。 とても高い目標ですし、今の時点では到底届きそうにない目標ですし、周囲からはたくさん笑われるかもしれませんが、何度でも、目指すビジョンのためにプロダクトで勝負し、かならずや結果という形で示していきます。

何者でもない僕たちを無条件に信じて応援してくれている方々には感謝しかありません。 ありがとうございます。 みなさま、どうか今後とも暖かく見守っていただけますと幸いです。

株式会社Flatt代表取締役 CEO 井手康貴